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【普通のグランドセイコーとは何が違う?】スペシャルの名を冠したハイビート自動巻きの61GSとは

アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。


セイコー
グランドセイコー スペシャル

今回紹介するのは、1970年頃にセイコーが生み出したハイビート自動巻きのグランドセイコー スペシャルだ。本モデルは、68年に製造が開始されたCal.6145/6146を搭載する“61GS”をブラッシュアップしたモデルであり、通常のグランドセイコー以上に精密な調整が施されていた。

セイコーでスペシャルの名を冠したモデルは、亀戸精工舎で生産されたモデルにつけられることが多いものの、61GSスペシャルについては諏訪精工舎が生産を行っている。

本モデルは最上級モデルであるV.F.A.(Very Fine Adjusted)に次ぐランクに位置づけられた製品であり、通常のグランドセイコーのGS規格より厳しいGSスペシャル級規格をクリアした、スペシャルの名にふさわしい調整が施されている。文字盤6時位置に輝くゴールド色のアプライトロゴやスペシャルの文字からも、その特別さが感じられる。

【写真の時計】セイコー グランドセイコー スペシャル。Ref.6156-800。SS(36mm径)。自動巻き(Cal.6156)。1970年代製。16万8000円。取り扱い店/WTIMES

【画像:この時計をさまざまなアングルから見る(全6枚)

外装にも目を向けると、従来モデルではプラスチック風防が採用されていたのに対し、本モデルではV.F.A.と同様にハードレックスガラスを採用し、より近代的なケース構造へと進化している。ラグ開口部の造形も、44GSの流れを汲んだ直線的な形状から、緩やかなカーブを描くデザインへと変更されており、従来の重厚で角ばった印象から、よりスマートで高級時計らしい佇まいに仕上げられている。

ムーヴメントには、先に述べたとおり、61GSスペシャル専用に調整が施されたCal.6156を搭載しており、毎時3万6000振動(毎秒10振動)もの振動数によって優れた等時性を実現している。これに加えて、優れた巻き上げ効率を誇るマジックレバー式の巻き上げ機構を搭載しており、ゼンマイの巻き上げ不足によるトルク変動を抑えることで等時性を保っていたのだ。

60年代後半から70年代にかけて、天文台コンクール機を除き、市販品で毎時3万6000振動を実現していたブランドは世界的にみてもごくわずかで、ロンジンのウルトラクロンやゼニスのエル・プリメロ、セイコーのCal.5740C、Cal.19系、Cal.45系など、数えるほどしか存在しなかった。ア・シールド社やETA社といった汎用ムーヴメントメーカーからもCal.AS1920やCal.ETA2837といった毎時3万6000振動のムーヴメントが登場するが、いずれも広く普及することはなく、市場から姿を消していくことになる。

その理由として、高速で動作するテンプやアンクルなどの脱進機周りの潤滑油が飛散しやすく、当時の素材や潤滑油の性能では長期間にわたって精度や耐久性を維持することが困難であったことが考えられる。そのため、70年代以降は振動数を、精度と耐久性のバランスが保ちやすい、2万8800振動に落としたムーヴメントが普及していった。そんな中、セイコーは保油装置の“ダイアフィックス”をガンギ車などの軸受けに採用し、スイス製の高性能な潤滑油を使用することで優れた精度と耐久性を両立させていたのだ。

もっとも、製造から半世紀以上が経過した現在では、適切な整備や定期的なメンテナンスが施されていない個体も少なくなく、当時の性能を発揮できるものは徐々に減少しつつある。そのため、本モデルの購入を検討する際には、しっかりと整備された個体、もしくは信頼のおける時計店で取り扱われているものを選ぶことを強く推奨したい。また、61GSスペシャルに限り、経年によって文字盤に変色が生じやすいという特徴があるため、購入時には文字盤のコンディションや書き換えの有無を確認しておきたい。加えて、水気や湿気などの外的要因を避けて保管することをおすすめする。

特にハイビート仕様の61系は、高トルクのゼンマイを巻き上げるために非常に重いローターを採用しており、自動巻きローターのベアリング周りに摩耗やガタが出やすい傾向がある。定期的なオーバーホールを欠かさないよう注意したいポイントだ。
グランドセイコーの最高峰モデルであるV.F.A.に次ぐグレードに位置づけられながらも、20万円前後で購入可能な高品質モデルとして、61GSスペシャルはいまなお注目に値する存在と言えるだろう。

 

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文◎LowBEAT編集部

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