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【マイナーブランドだけど実力派!】テンプが渦巻き状の独特な耐震機構を開発した歴史をもつ“ワイラー”とは?

アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。


ワイラー
ダイナスター

今回取り上げるのは、1970年代初頭頃に製造されたと思われるワイラーのダイナスターだ。

マニアックなアンティークウオッチ愛好家であれば一度は耳にしたことがある名前かもしれないが、現在の日本市場においては、一般的な知名度はほぼ皆無と言っていいほどのマイナーブランドである。

しかし、ワイラーは繊細で故障しやすかった機械式時計における“耐衝撃性”という課題に対し、独自の機構を生み出すことで、機械式腕時計の実用性を向上させた実力派メーカーとして、時計史の中に確かな足跡を残している。

同社は1896年、スイス・バーゼルにてポール・ワイラーによって設立されたメーカーだ。1927年には、機械式時計の心臓部とも呼べるテンプ軸の破損を防ぐ独自の耐震装置“インカフレックス”を発明し、一躍その名を知られる存在となった。同社はこの機構をETA社などから供給されたエボーシュムーヴメントに搭載することで、市場での評価と人気を高めていったとされている。

特にイタリアにおいては、1930年代初頭に同市場への参入を目的として、イタリア語で「頂点」を意味するVetta(ヴェッタ)の名を加えた“ワイラー ヴェッタ”が発売され、人気を博したとされる。とりわけ1934年のイタリア・ワールドカップで、イタリア代表チームに同社の時計が供給され、同国が優勝を果たしたことで、ブランドは国内で爆発的な知名度を獲得した。さらに、映画界で多くの著名人が着用していた点からも、同社のイタリアにおけるマーケティング戦略の巧みさがうかがえる。

【写真の時計】ワイラー ダイナスター。Ref.8088。SS(35mm径)。自動巻き(Cal. ETA2472)。1970年代製。14万8000円。取り扱い店/WatchTender銀座

【画像:文字盤の細部や渦巻き状のインカフレックスの状態を確認する(全6枚)

今回紹介するダイナスターは、3針の自動巻きにデイト表示を組み合わせた、非常にシンプルな実用時計として仕上げられている。60年代後半から70年代にかけて多くのブランドが採用していたCライン形のケースを備え、ねじ込み式の裏ブタを採用した重厚な構造となっている。

Wロゴの刻印されたオリジナルのリューズや純正のメッシュブレスレットなど、各パーツのコンディションも抜群だ。

特段目立ったデザインではないが、アプライドによるブランドロゴや、セリフまでくっきりと印刷された各種フォント、左右非対称の仕上げが施された時分針など、手の込んだディテールから素性の良さが感じられる。

ムーヴメントには、ETA社のCal.2472をベースに、ワイラー独自の耐震装置であるインカフレックスのテンプを採用したCal.WH217Rを搭載している。

インカフレックスは、一般的な耐震装置とは一線を画し、時計の精度をつかさどるテンプ自体に耐衝撃構造を組み込んだ仕組みだ。通常のテンプでは、2〜4本の直線的なスポーク(アミダ)でテンワを支え、軸受け部分に耐衝撃用のバネを組み込んだ構造が採用されている。一方インカフレックスでは、スポーク自体を渦巻き状の弾性を持つ形状とすることで、衝撃を受けた際の力を逃がし、テンプの軸(天真)が折れるのを防ぐ構造となっている。次ページに添付したムーヴメント内部の画像でも、この渦巻き状のスポークを確認することができる。

一見すると非常にシンプルな仕組みであるため、強度に不安を覚える人もいるかもしれない。しかし1956年には、フランスのエッフェル塔の頂上からワイラーの時計を投げ落とすという衝撃的な公開実験が行われ、正常な動作を維持したままその堅牢性を証明した記録も残されている。

また本個体では、インカフレックスに加え、テンプの軸部分に分解掃除や注油といった整備性向上を目的とした3点式の耐震装置が補助的に備えられている点にも注目したい。耐震性能だけでなく、メンテナンス性まで考慮された設計からは、ワイラーというブランドの技術者としての誠実さがうかがえる。

ベースとなっているETA2472に関しても、流通量が非常に多かったため、補修部品やドナーパーツが入手しやすい点も魅力だ。もっとも、シンプルかつ耐久性の高い設計であるためか、深刻なパーツの破損や摩耗は起こりにくく、定期的なメンテナンスを施せば安定して動作してくれるはずだ。

現在のアンティーク市場には、クォーツショックの際に消滅・休止してしまい、歴史や知名度の低さからあまり注目されないマイナーブランドも数多く存在する。その中でも、ワイラーのようにエボーシュムーヴメントを採用した時計は、現在でも維持がしやすく、安定した性能を発揮することから、注目に値する存在だと言える。人と被りにくい時計や、マニアックなエピソードを秘めた一本を探している愛好家には、ぜひチェックしてほしいジャンルだ。

【LowBEAT Marketplaceでほかのワイラーの時計を探す

 

 

 

文◎LowBEAT編集部/画像◎WatchTender銀座

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