【OUTLINEのアウトライン|no.1】 悩みに悩んだムーンフェイズクロノグラフ

 筆者がプロデュースするオリジナルの時計ブランド“アウトライン(OUTLINE)”。ひとつの製品を作るのに、デザイン的にもまったくの新しいモデルだと、やはり最低でも開発に1年はかかる。そのため、その間のエピソードや開発段階で苦労したこと、はたまた、ちょっとしたこだわりについてなど、製作裏話的なものをつらつらと書いていきたいと思う。題して「OUTLINE」の「アウトライン(概略)」である。

 第1回目は、12月に発売を開始したムーンフェイズクロノグラフについて書いてみたい。これは1980年代に実際に日本で販売されていたスイスメイドの時計で、そのデッドストックを文字盤のみまったく別のデザインに作り変えたものだ。これのオリジナルのデザインは、白文字盤にゴールドでバータイプのアップライトインデックスを配し、細いリーフ針を採用したとてもシンプルなものだった。実は、これのリデザインにはかなり苦労させられたのである。デザインの方向性をまとめラフスケッチを描きあげるまでに約2カ月もかかった。

 何にそんなに悩んだのかというと“ムーンフェイズ”の小窓の形と位置だ。みなさんは「何だそんなことか」と思われるかもしれないが、一般的なムーンフェイズクロノグラフの場合、30分積算計とスモールセコンドの二つのインダイアルに揃えて、もうひとつインダイアルを設けて三つ目にし、その中に扇型の小窓を納めるというのが一般的で見た目もバランスがいい。

搭載するバルジュー7768の日の裏側(文字盤側)を撮った写真。一般的なムーンフェイズ機構の場合、もっと小さなムーンディスクで中央ではなくオフセンターにカレンダー機構とともに配置されることが多い。しかも描かれている月は四つではなく二つだ

 しかしこれの場合は、6時位置に独立していてしかもその窓は扇型ではなく独特の形状をしている。これはこれでムーンフェイズ機能としては見やすくて味わい深いのだが、全体とのデザイン的なバランスをとるのがどうにも難しかったのだ。

 ムーヴメントのバルジュー7768がそういう配置なのだから動かしようがない。窓の形もムーンディスクに描かれている月に合わせたもののためこれも変えられない。大げさな言い方だが、八方塞がり状態だった。

文字盤全体を黒にすることでムーンフェイズの小窓が強調されないようにした。なおこれはプロトタイプの写真。製品版は3時位置ロゴ部分を2行に変更している

 そしてふと考えたのが「ムーンフェイズの小窓の形自体を目立たなくすればいいんだ」と。そこで文字盤の色に黒を採用し、写真ではわからないが、二つのインダイアルとムーンフェイズの小窓のラインが連動するように、外周に同心円状の装飾を入れたのである。まあほんと単純なことなのだが、これだけで2カ月間も悩んだのだから、笑っちゃいますよね。

 そして、黒文字盤に僕の好きなゴールドのアルファ針。それに合わせてアップライト仕様のローマンインデックスを採用し1950年代風のデザインが完成したというわけだ。このバルジュー7768を搭載したムーンフェイズクロノグラフは、90年代にスイスの時計メーカー(当時はドイツ)のクロノスイスも出している。手前味噌だが、それよりはいい雰囲気のデザインに仕上がっているんじゃないかと思うのだが・・・。

アウトライン公式WEBサイト

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。