菊地の【ロレックス】通信 No.084|グリーンサブはなぜ高騰したのか?

 先日、新型サブマリーナーデイトのグリーンベゼルタイプの実機を見る機会があった。そこで今回はこの通称グリーンサブをあらためて取り上げてみたい。

 まず、このグリーンサブについて簡単に説明すると、実は最初からラインナップにあったモデルではない。サブマリーナーが誕生してから50年目となる2003年に新たに追加されたものだ。つまり記念モデルとしてロレックスのコーポレートカラーであるグリーンがベゼルにのみ採用された。レファレンス(型番)は、当時のサブマリーナーデイトの16610の末尾にLVを加えたRef.16610LV。この末尾の“LV”とはフランス語の“Lunette Vert(緑のベゼル)”の頭文字から取ったものである。

左が2020年に生産終了した第2世代のRef.116610LV、右が新型のRef.126610LV。写真ではグリーンの色味が違って見えるが、これはライティングの影響で実際にはそれほどの違いは感じなかった

 その後継機として10年に登場した第2世代、Ref.116610LVではそれまでの黒文字盤からグリーン文字盤に変更。そして、第3世代として20年に発表された新型のRef.126610LVでは、3200系新型ムーヴメント搭載に伴い1mmサイズアップされて41mmに。加えて文字盤もグリーンから初代と同じ黒文字盤に再び戻されたのである。

 今回あらためてこの新型の実機を見たが、正直言って1mmのサイズアップはほとんど気にならなかった。それよりもラグ部分が細くなったことで、スッキリとさえ見えたほどだ。そして最大のポイントはやっぱり黒文字盤に戻ったことだろう。全体が引き締まって逆にベゼルのグリーンが引き立って見える感じがした。なお、細かな変更点については以前の記事「【ロレックス】通信 No.076|新旧サブマリーナーデイトを実機で検証」で黒ベゼルタイプについて書いているためそちらも参照してもらいたい。

 さて、このグリーンサブだが、デイトナやGMTマスター II の青赤ベゼルと並ぶ異常なプレミアム価格であることでも知られる。同連載のNo.040でも書いているが、実勢価格が大幅に釣り上がったのはグリーン文字盤だった第2世代のときで、デイトナやGMTマスター II と同じく19年3月頃からだ。当時160万円だった実勢価格は5月下旬には200万円まで一気に高騰し、通常のサブマリーナデイトとの価格差も一時期は60万円まで大きく開いたのである。

  これはもともと流通量自体が少なかったことに加えて、19年にピークだったインバウンド需要が大きく関係している。日本人には派手すぎて敬遠されがちなグリーンサブも、外国人愛好家にとっては地味に映る通常のサブマリーナデイトよりも人気が高く、なかでも顕著だったのが中国人愛好家だった。縁起の良いヒスイに色が似ているということが背景にあったと言われる。

【グラフ(1)】パワーウオッチ11月号(No.114)より

 ちょっと上のグラフ(1)を見ていただきたい。先頃生産終了した3型の旧サブマリーナーについて、19年10月から新型が発表された後の20年11月までの新品実勢価格の推移を表したものだ。乱高下の激しさもさることながら、コロナウイルス下の1度目の緊急事態宣言解除後からの異常な値動きにも驚かされる。特に新型がリリースした20年9月のグリーンサブは驚異的な上げ幅を記録した。

 生産終了するとあって需要が集中したことによる一時的なものだったが、現在の実勢価格を調べると新品で240〜250万円台とまたもやだいぶ上がっており、新型の200万円ぐらいに対して40万円以上も高値で流通する状況だ。

Ref.16610LVの前半の生産分の個体に見られる、ベゼルの40の4の上部の平らになった部分が広い通称ファット4とSWISSと MADEの間隔が広いビッグスイス

 さらに、今回価格を調べていて驚いたのが、初代グリーンサブ、Ref.16610LVのUSED価格だ。何と170〜190万円台の個体が多く流通しており第2世代のUSED価格に迫る勢いなのである。2003年当時の定価が54万円台だったため実に3倍以上となってしまったというわけだ。

 しかも、前半の頃に生産された個体(写真)にみられる通称“ファット4” “ビッグスイス(ワイドスイスとも言う)”と愛好家の間で呼ばれているレアな仕様の個体については250万円以上とびっくりするほど高騰している。ちなみに“ファット4”とはベゼルに表示されている40の4の上の平らになった部分が広いもの。もうひとつのビッグスイスは文字盤の6時位置に表示されている“SWISS MADE”のSWISSとMADEの間隔が離れていることを指す。

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。