Q10.アンティークウオッチとは、いつ頃の時計を指すのか?

A.目安としては1960年代以前に製造された時計

 家具やジュエリーなどアンティークと呼ばれるものにはいくつかあるが、時計の世界にもアンティークという言葉がよく使われる。現に、多くはないがアンティークウオッチの専門店もそれなりに存在し、しっかりと市場が確立されている。
 では、どのようなものをアンティークウオッチと呼ぶのかご存じだろうか。恐らくは時計愛好家の方以外あまり知られていないのではないか。そのひとつの目安となっているのが、時計が製造された時期が1960年代以前かどうかだ。
 その理由は、高級時計の本場であるスイスの時計産業にとって70年代が大きく変革を迫られた激動期だったからだ。

 1950年代から60年代終わりにかけてスイス時計産業は機械式時計の黄金期といわれるほど隆盛を極めていた。しかし70年代に入ると一転、高精度で生産性の高いクォーツ時計の台頭に加えて、71年に始まったスイスフラン高は、好景気だったスイス時計産業にも大打撃を与えたのである。
 そのため各メーカーは生き残りをかけてコスト削減を迫られる。ただ、かつてないほどの好況に伴い時計師の人件費も驚くほど急騰するなど、すでに高コスト体質となっていた。しかも、60年代までの時計は高品質を売りに手作りされていたことから産業自体の工業化の立ち後れも重なりスイス時計産業は一気に斜陽を迎えたのである。そして時計メーカーの多くが休眠、廃業に追いやられたのだった。

1960年代以前に作られたアンティークウオッチ。当時から普及品と呼ばれる価格帯であっても、パーツの一つひとつにしっかりと磨きをかけて仕上げされているものが多かった。こうした仕上げは美しいだけでなく耐久性も高めるため、半世紀以上経っても十分使用に耐え得るのだ

 存続できた時計メーカーもコスト削減は急務で、名だたる時計メーカーであっても60年代までのような時計作りは極めて困難だった。つまり、70年代を境に時計の品質が大きく変わったことから、日本のアンティークウオッチ業界では、1960年代までに製造されたものをアンティークウオッチとすることが共通認識として定着したというわけだ。

 ちなみに、弊社が刊行する業界唯一のアンティークウオッチ専門誌「Low BEAT(ロービート)」も、編集方針としてこの1960年代以前を基準としている。

 

文◎松本由紀(編集部)

 

【意外と知らない時計知識】
■Q1.腕時計の防水性能表示「m(メートル)」と「BAR(バール)はそもそも何が違う?【ダイバーズ編】
■Q2.ローマ数字インデックスにおいて、4はなぜ“IV”ではなく“IIII”とするのか
■Q3.時計の時表示はなぜ“0(ゼロ)”ではなく“12”なのか
■Q4.“m”表示の防水性能以外で、潜水用ダイバーズウオッチに必ず必要なものとは?【ダイバーズ編】
■Q5.日常生活において磁気の影響を受けてしまうのはどんなとき?
■Q6.ハイスペックな潜水時計に装備されているバルブは、なんのためにあるか【ダイバーズ編】
■Q7.街中にある大時計には、なぜ秒針がないのか
■Q8.東京2020オリンピックおよびパラリンピックのオフィシャルタイムキーパー(公式時計)を務めたメーカーは?
■Q9.ダイバーズウオッチを着けて海水浴をしてしまった。洗ったほうがいいの?【ダイバーズ編】