高級宝飾店「ヴェンペ」が第2次大戦時に製造していた軍用時計とは?

 ヴェンペ(WEMPE)と言えば、1878年創業と実に130年以上もの歴史をもち、いまではヨーロッパやアメリカを中心に30店舗を展開する世界的にも知られる老舗の高級宝飾店である。

 2006年にはドイツにおける高級時計の聖地として知られるグラスヒッテの地に自らが時計工房を設立。自社でムーヴメントを開発するなど、新興とはいえ、いまやグラスヒュッテを代表する時計メーカーのひとつに成長した。

現在のヴェンペの時計工房。右の天文台の1階で高級ラインのクロノメーターヴェルケ。左の建物でツァイトマイスターを製造する

 そんなヴェンペだが、元々は船の位置を正確に読み取る船舶用の時計、マリンクロノメーターの製造メーカーだったことをご存じだろうか。第1次世界大戦時にはドイツ海軍に制式に採用されるほどの技術力を誇っていた。しかもその後の第2次世界大戦ではドイツ空軍向けのパイロットウオッチも製造していたことは意外に知られていない。

 第2次世界大戦時にドイツは、国防軍最高司令部主導のもとで陸、海、空軍で使用するマリンクロノメーターやナビゲーションウオッチの製造に着手。しかもそれらは、開発から調達、検査に至るまで軍によって細かく規定されるというものだった。

 第2次世界大戦といえば、戦闘機や爆撃機などの航空機が結果を大きく左右するほど戦術的に重要な位置付けだった。そのためパイロット用の時計となると軍の装備品としては特に高い精度が要求され、そのほとんどはドイツ国内のメーカーによって製造されていた。そしてそれを担っていたのが、A.ランゲ&ゾーネ、ラコ、ストーヴァ、そしてヴェンペ(写真❶が当時の実際の時計)だったのである。ちなみにスイスのメーカーでは唯一IWCが製造している。

 そして、各社が空軍パイロット用に製造していたナビゲーションウオッチが“Baumauster B”こと通称Bウオッチ(B-Uhr、Bウーレンとも呼ぶ)である。

(写真❶)当時ヴェンペがドイツ空軍用に製造していたナビゲーションウオッチ、通称Bウオッチがこれである。ケースは55mmと大型で、視認性を重要視した作りなのが見て取れる

依頼を受けた各メーカーは、外装こそすべて同じ仕様だがムーヴメントだけは違っていた。ヴェンペはスイス製エボーシュのThommen製Cal.31を搭載する

ケースの裏ブタ内側にはどこで作られたものかが刻印されている。上からBauat=ムーヴメントメーカー、Getät-Nr=精度、Werk-Nr=シリアル番号、Anforderz=スペックシートの番号、Hersteller=製造メーカー

 海軍用は懐中時計が多かったが、空軍のそれは、瞬時に確認ができるように腕時計型をしていた。各社は軍が規定したスペックシート(下の写真)に基づいて製造。そのため完成したBウオッチは製造元が違えどもすべて外装やデザインは同じ仕様に統一されていた。

文字盤のデザインや外装の仕様が記されたスペックシート。各社はこれに基づいて製造していた。右上に記載されたスペックシート番号“FL 23883”の頭のFLとは空軍を表す記号で、上に掲載したヴェンペのBウオッチの裏ブタ写真にも刻印されているのが確認できる

 その仕様は次の通り。アラビア数字とバーインデックスを備えるマットな黒文字盤で、そのケースは直径55㎜のアルミニウムまたは洋銀製の鍛造ケースを使用。さらにケースの色はグレーに統一された。加えて、分厚いパイロットスーツの上からでも装着できるよう、ベルトは長く1枚革で作られている。さらに海軍のスモールセコンドよりずっと見やすいセンターセコンドへの変更もBウオッチならではの特徴だった。

往年の軍用時計をモチーフにした
パイロットウオッチ

 さて、現在ヴェンペでは、当時ドイツ空軍のために製造していたBウオッチをモチーフにしたモデルを展開している。それがツァイトマイスターコレクションのアビエーターシリーズである。

 往年の雰囲気を残しながらも現代的なエッセンスもプラスしており、洗練された印象に仕上がっている。そのためオン・オフどちらでも楽しめるファッション性も魅力と言えるだろう。

 そんな外装面の仕上げもさることながら、かなり手間をかけて仕上げられたムーヴメントもツァイトマイスターコレクションの特筆すべき点である。それは信頼性の高いスイス・ETA社製を採用。しかも、そのまま使うのではなく、すべて一度分解してから高い精度が出るように再調整したうえで搭載しているからだ。

丸印が精度を司る最も大切な心臓部(脱進機)。この中の緩急針には通常エタクロンが使われているが、ヴェンペは、より微妙な調整が可能で安定性も高いトリオビスに交換している

 ツァイトマイスターに搭載されているのはETA社でもトップクラスのものである。さらに同社は分解再調整に加えて、緩急針をエタクロンから高級なトリオビス(上の写真の赤丸内)に交換し、耐震装置もインカブロックではなく復元性が高いキフショックに変更。ドイツクロノメーター検定に合格するレベルまで、贅沢すぎるほどの改良が加えられている。

 しかもこの高級モデル並みの仕様ながら、クロノグラフ機能を搭載したモデルでさえも30万円台と、コストパフォーマンスの高さも大きな魅力なのは言うまでもない。

(文◎菊地吉正/協力◎シェルマン銀座店)

アビエーターウォッチ オートマティック XL
Ref.WM60 0002。SS(45mm径)。3気圧防水。自動巻き(ETAA07.161ベース、ドイツクロノメーター規格取得)。34万200円

アビエーターウォッチ クロノグラフ
Ref.WM60 0004。SS(42mm径)。3気圧防水。自動巻き(ETA7753ベース、ドイツクロノメーター規格取得)。36万7200円

 

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