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【話題の国産ウオッチを本音レビュー|Vol.3】セイコー プロスペックス ダイバースキューバ

 セイコーには時代を超越したレガシーともいえる名機がいくつか存在するが、セイコー ダイバーも間違いなくそのラインナップに名を連ねている。
 同社が国産初のダイバーズウオッチを発売したのは1965年のことで、その防水性能は150mだった。その後は防水性能の向上、ハイビートムーヴメントの搭載、チタンケースの採用、クォーツ化、ダイブコンピューター搭載、スプリングドライブムーヴメントなど、時代に則して進化していき、現行モデルに至るまで一貫して人気を集めているわけだが、なかでもとりわけ人気が高い伝説的モデルがある。それが68年に発売された2ndモデルだ。

1969年から製造が開始された150mダイバーズの2ndモデル。後期にはリューズガードが装備された

 この2ndモデルには初期型と後期型があり、特に人気が高いのは後期型(Ref.6105-8110)と呼ばれるモデルだ。その人気の理由は、植村直己氏が愛用していたという逸話ゆえだろう。
 植村氏は日本人として初めてエベレスト登頂に成功したほか、世界で初めて五大陸最高峰を制覇した偉大な冒険家として知られる。果敢なチャレンジで世界的に尊敬を集めてきた氏は、74年の北極圏横断時にこのモデルを着用していた。
 昼夜の区別もつかなくなるような北極圏で命をサポートしてきた重要なツールであり、その信頼性が時計ファンのロマンをかき立てたのだ。現在でも中古市場では高価で取引されているが、ダイバーズという特性ゆえにハードに使われてきた個体が多く、きれいなものはなかなか流通しない。

 

■Ref.SBDC111。SS(42.7mm径、13.2mm厚)。200m潜水用防水。自動巻き(Cal.6R35)。13万2000円

 

 今回紹介するプロスペックスRef.SBDC111は、この2ndダイバー後期型をかなり忠実に再現したものだ。ケースフォルムはほぼオリジナル同様だが、見た目で大きく異なるのがカラーリング。オリジナルモデルはブラックベゼル&文字盤だったが、今回は抹茶色と言えるような濃い目のオリーブグリーンが採用されている。そしてゴツめで質実剛健なフォルムには、このミリタリー調のカラーリングが絶妙にマッチしており、精悍な印象を高めているのだ。クラシカルなフォルムのケースデザインには相性が良い色味だと言えるだろう。

 アップライトされた長方形インデックスやコインエッジベゼル、赤と白がさりげなく使われた秒針などにオリジナルの雰囲気をうまく残しつつ、ケースのフロントとサイドでサテンとポリッシュの研磨を使い分けている点など、現代的な解釈が加わったデザインは完成度が高い。ボリュームもダイバーズとしては十分で、全体に迫力がある雰囲気がカッコいい。前述の理由からオリジナルモデルが手に入りにくい状況を考えると、往年のセイコー ダイバーファンも納得できる製品といえるのではないだろうか。

 搭載されている6R35ムーヴメントは、6振動のロービートでハック機能付き。現行プロスペックスのミドルレンジによく搭載されているムーヴメントだが、パワーリザーブが70時間と強力で実用性は高い。ネジ込みリューズは4時位置に埋め込まれており、しっかりガードされていてダイバーズとしての気密性を高めているだけでなく、オリジナル同様にデザイン的なアクセントにもなっている。シリコンベルトも装着感が良いだけでなく、時計の雰囲気にマッチしていていいチョイスだ。防水性能はオリジナルの150mに対して200mにスペックアップしている。

 ちなみに2ndダイバーをモチーフにしたモデルは、2019年もSBDX031の型番で2500本のみ限定リリースされていた。こちらはムーヴメントがより高精度な8L35で、さらに限定ナンバリング入りというプレミアム感があったものの、50万円近くと価格はかなり高額だった。
 それに比べると今回のSBDC111は10万円代前半という価格帯で、リーズナブルさが際立っている。しかもレギュラーモデルとしてリリースされたことで手に入れやすく、意外なロングセラーになる可能性も秘めている。カラーリング違いでオリジナルと同様のSBDC109も同時リリースされているが、新しいカラーリングをまとい差別化が図られているこちらのグリーンモデルのほうが、時計としての魅力は際立っていると感じる。

 現行の時計としては非常にレトロテイストなデザインだが、マニアックな時計ファンの間で60~70年代のアンティークウオッチの人気が密かに高まっていることもあり、市場では想像以上に注目を集めるのではないだろうか。この愛嬌あるデザインにして、ちゃんと現代的なスペックや堅牢性を備えており、しかも価格もかなりこなれているということで魅力は高い。2020年新作ウオッチのなかではかなりの注目株といえるだろう。

 

構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部

 

【問い合わせ先】
セイコーウオッチお客様相談室 TEL.0120-612-911
https://www.seikowatches.com/

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