菊地の【ロレックス】通信 No.082|日本の並行輸入市場とロレックス [第2回:2000〜2009年]

 前回の記事では1980〜1990年代のロレックス市場について書かせていただいたが、第2回の今回は2000〜2009年までの10年間を振り返ってみたい。

 2000年になると中国など新興国の台頭もあり世界的な時計ブームに拍車がかかり本格化する。日本にも様々なスイスブランドが展開を始め、筆者が刊行するパワーウオッチ(2001年創刊)を始め、時計専門媒体も5誌ほど創刊。多いときにはそれまでの既存誌含めて9誌(現在は5誌)もあったほどだ。それだけ当時の日本の時計市場も活況を呈していたわけである。

 並行輸入の時計専門店が増えたのも2000年前後からだ。80年代以降アンティークからスタートした時計専門店に加えて、90年代のブランドブームから生まれた並行輸入品のブランド専門店が、時計ブームを受けて高級腕時計の品揃えを増やし売り場を拡張したり、時計だけに特化した店舗を新たに展開するなどして、さらに増えていったように記憶している。

 ロレックスの動きが顕著になったのも2000年を境にだ。毎年何らかの新しいモデルを発表するようになり、その存在感をさらに強めていったのである。

左が自社ムーヴメントを搭載し2000年に登場したデイトナのRef.116520、右がゼニス社のエル・プリメロを搭載するRef.16520。前者はインダイアルの位置が若干上に移動している点とスモセコと12時間積算計の位置が逆になった

 その口火を切ったのが、2000年発表のデイトナ、Ref.116520である。外装自体はそれまでのデイトナとほとんど変わらなかったが、ロレックス初となる自社開発の自動巻きクロノグラフムーヴメント、Cal.4130が搭載された。

 1930年代から自動巻きムーヴメントを自社で開発し完成度を高めてきたロレックスが、自動巻きクロノグラフに限っては、1999年までは他社製を使用していたことを意外に思われるかもしれないが、それだけ開発には慎重だったということだろう。Cal.4130の完成度とその先進性は極めて高い(何が凄いかは別の機会に取り上げたい)。

 そして、この翌年にはムーヴメントの耐久性が強化されてエクスプローラー I とサブマリーナーのノンデイトタイプがマイナーチェンジ。03年にはサブマリーナー誕生50周年を祝した記念モデルとして、ベゼルにロレックスのコーポレートカラーであるグリーンを採用したサブマリーナーデイトを発表して大いに話題を呼んだ。

2003年に登場したロレックスのコーポレートカラーであるグリーンが採用されたサブマリーナーデイト。サブマリーナー誕生50周年を記念してラインナップに追加された

 その後も、04年にGMTマスター II がフルモデルチェンジし現在のデザインとなった。このデザインが評判となり07年に登場したステンレスモデルは一躍人気モデルに浮上する。

 また、デイトジャストのリニューアルに伴い、同ラインにターノグラフ名を復活。05年にはブランド創立100周年にちなんでドクターズウオッチの愛称で知られる往年の名作、プリンスをチェリーニラインに復活させた。加えて07年には1000ガウスの高耐磁時計、ミルガウスをリリースするなど2000年代はまさに復活ラッシュとなったこともこの年代の特筆すべき点と言える。

往年の名前が復活した。左から、ミルガウス、チェリーニ プリンス、デイトジャスト・ターノグラフ

 これによってロレックスファンならずとも毎年何が出てくるのかが話題になり、新作が発表されると雑誌などのメディアも大きく取り上げた。そして、これは当時の実勢価格にも影響を与え、新作モデル=プレミアム価格化という異常な状況を生み出してしまったのである。

 もちろん、この時代の並行輸入市場では、デイトナ以外のほとんどのスポーツモデルの実勢価格は定価よりも2割ぐらい安かった。まさに手の届く高級品だったこともロレックス人気を支えていたことは明らかだ。しかし、これに加えて、こうしたニューモデルを小出しにしながらファンの心を引き付ける。ロレックスによる巧みとも思える戦略も人気を加速させていったことは言うまでもない。

 ちなみに、日本の並行輸入市場とはあまり関係のないことだが、実は2000年台前半までロレックスを名乗る会社は2社存在した。ムーヴメントを製造するロレックス・ビエンヌとハンス・ウィルスドルフが創業したロレックスSA(通称ロレックス・ジュネーブ)である。この2社は2004年にロレックスSAに統合される。ちょうど100周年を迎える1年前のことだ。

2007年に登場したヨットマスター II 。デイトナ用に開発された自動巻きクロノグラフムーヴメント、Cal.4130に改良を加えて、独自のカウントダウン機能が装備されたCal.4160を搭載する

 この統合の成果として現れたのが、2000年代前半から加速した新製品ラッシュだと言われている。しかも、これまでは頑なに複雑機構をムーヴメントに搭載してこなかったロレックスが、2007年発表のカウントダウン機能付きクロノグラフ、ヨットマスター II に象徴されるように、この統合を機に様々な独自の機構をムーヴメントに載せて複雑化するようになったのだ。

 こうして空前の時計ブームを迎えていた2000年代。デイトナは2008年の北京オリンピックが開催された夏頃に140万円まで上昇し、デイトナ史上ではそれまでの最高値を記録した。しかし、その直後に起こったリーマン・ショックで状況は一変する。

 さて次回は、2010から現在までをお届けする。

【2000〜2009年に発表された注目モデル】
2000年 コスモグラフデイトナ(Ref.116520)
2001年 エクスプローラー I (Ref.114270)、サブマリーナー(Ref.14060M)
2003年 サブマリーナー(グリーンベゼル、Ref.16610LV)
2004年 デイトジャスト ターノグラフ、
2005年 GMTマスター II 、チェリーニ プリンス
2007年 ミルガウス、ヨットマスター II
2008年 ディープシー
2009年 デイトジャスト II

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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