小スライド 意外と知らない時計知識

【Q113】針が行ったり来たりする“レトログラード機構”とは何か

A.針が円運動ではなく、扇状に往復運動をする機構

 “レトログラード”とはフランス語で日本語の“逆行”を意味する。つまり、針が一定の位置まで運針するとバネの力で元の位置まで一瞬で戻り再び進み始める。これを何度も繰り返すとてもユニークな機構だ。

写真はレトログラード機構を採用したレゼルボワールの時計。センターの針が分針で、60の目盛りまで針が来たら、00の目盛りまで一瞬で針が戻り、同時に6時位置の時表示も切り替わる仕組みだ

 この機構の起源には諸説あって、17世紀後半にはレトログラード表示を備えた懐中時計が登場していたとも言われている。少なくとも、様々な革新的技術を発明し時計の歴史を200年早めたと言われる時計師アブラアム-ルイ・ブレゲが18世紀半ばに製作した懐中時計にレトログラードが採用されている。

 そんなレトログラード表示が腕時計界でちょっとしたブームになったのは1990年代。当時、活躍していた希代のウオッチデザイナー、ジェラルド・ジェンタやフランスの独立時計師ダニエル・ロートらが、レトログラード表示を採用した時計を積極的にリリースしていたのだ。
 ただし当時は針がリセットする衝撃の影響で誤表示しやすいほか、構造的に針の逆回しができないタイプがほとんどで、それを知らずに逆回ししてしまうユーザーも多く、故障が多発してしまい、このブームも長くは続かなかった。

ジェラルド・ジェンタのレトログラード表示を採用した時計

 

文◎松本由紀(編集部)

 

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