【第2回】世界的な時計ブームで右肩上がりに急成長

12月31日までの5日間毎日お届けするこの連載企画、前回は筆者が刊行するパワーウオッチ(POWER Watch)はどのようにして生まれたのかについて書かせていただいたが、2回目の今回は、パワーウオッチが創刊した2000年代の日本における時計市場はどうだったのかについて触れてみたいと思う。

 創刊当時といまとの決定的な違いは、ユーザーの消費意欲じゃないだろうか。これは何も時計に限った話ではないかもしれないが、当時のほうが意欲旺盛だったのは確かである。そのためパワーウオッチはよくコンビニエンスストアで売れた。

 これが何を意味するのかというと、書店の場合、ユーザーはあくまでも雑誌や書籍を購入、あるいは探すのが目的。一方のコンビニエンスストアは、確かに雑誌購入を目的にする人もいるが、別の目的で来店し、面白そうなので雑誌を「ついで買い」というケースのほうがどちらかというと多い。つまりコンビニエンスストアで贅沢品である高級腕時計の情報誌が売れるということは、それだけ「高級時計を買おうか」という意識を持つ人がいまよりも確実に多かったことの表れだったと言えるのだ。

■表1「ロレックスの人気スポーツモデルの実勢価格推移(各年12月時点の税込価格)」

 2001年の経済状況は、ドットコムバブル(インターネットバブル)の崩壊など決して良かったわけではない。しかし、ロレックスのサブマリーナデイトの当時の実勢価格(表1参照)が32万円と現在の3分の1以下。金額だけを見ればまさに頑張れば手の届くレベルだった。これが消費意欲を喚起していた大きな要因のひとつだったことは間違いない。

■グラフ1「円に対する為替相場の推移」

 もちろんスイス時計産業も1990年代後半からの時計ブームに乗って、右肩上がりに売り上げを伸ばしていた。特に2000年代に入るとスイスフラン高が加速(グラフ1参照)していたことも手伝って、それが顕著に現れているのがわかる。もちろん、中国を筆頭とする新興国の台頭も、背景にあったことはいうまでもない。

 しかしそんななか、スイス時計産業を震撼させるある出来事が起こった。それは02年のこと、当時スウォッチ グループ社長のニコラス・G・ハイエックが、06年にETA製の汎用機械式ムーヴメントの供給を停止すると一方的に宣言したからである。これを受けて、ある程度の力のある時計メーカーでは、自力でムーヴメントを賄おうという気運が高まり、各社による自社製機械式ムーヴメントの開発に拍車がかかったのである。

31号は全国の並行店と質店、計80店舗の商品情報が2422本。全99ページにおよんだ

 世界的な時計ブームに新興国の台頭と盛り上がりをみせる高級時計市場。その好調ぶりはパワーウオッチにも顕著に現れていた。2006年11月28日に発売した31号は、なんと並行輸入店の入荷情報ページが99ページ、掲載本数2422本と、先にも後にも最大数を記録したのだった。それに伴い雑誌自体のページ数が増えてしまったことから、中綴じ仕様での製本の限界を超えたために、用紙を薄くして印刷したという記憶がある。

 また、スウォッチ グループの本社ビルやオーデマ ピゲ、ショパールといったスイスの名だたる高級時計メーカーのブティックがこぞって銀座にできたのもその翌年の07年である。これは日本市場というよりは、台頭する中国を筆頭とするアジア圏を見据えてのことだったようだ。

 そしてこの高級腕時計市場の活況さは08年夏に開催された北京オリンピックまで続いた。しかしながら、同年9月に起こったリーマン・ブラザーズの破綻(いわゆるリーマン・ショック)で、その状況は一変したのである。

さて、第3回は「世界を襲った未曾有の経済危機」をお届けする(12月29日11時50分を予定)。

■2001年からの高級時計市場を振り返る【第1回】いくらで買えるのか原点はここにあり

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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