【わずか17本】編集長・菊地が再生(後編)|古典的で趣ある月齢表示は、なぜ時計に必要だったのか?

 筆者がプロデュースするオリジナルの時計ブランド「アウトライン」。その最新作として 、1980年代のスイス製手巻き時計のデッドストックをデザインをやり直し再生させた“ムーンフェイズクロノグラフ7768”が完成。先週土曜日(10月31日)の投稿では、今回のデザインを採用した理由について紹介させていただいた。

 今回はその後編として、この新作の最大の魅力でもあるムーンフェイズという機能について触れさせていただきたい。実のところこのムーンフェイズ自体、機能としては知っているものの、どのような背景から何のために生まれたものなのかは意外と知らない人も多い。そのため現在発売中のPOWER Watch 11月号の特集『ムーンフェイズ時計の魅力を再考する』で、筆者が書いた記事の一部を引用して解説したいと思う。


1980年代のスイス製手巻きクロノグラフのデッドストックをリデザインしたアウトラインの最新作。顔が描かれた月が当時らしい古典的な風合いを醸す

 腕時計には時刻を表示するだけでなく、カレンダー機能やGMT、そしてクロノグラフ機能など、古くから時計の実用性を高める様々な付加機能が生まれては装備されてきた。このムーンェイズ機能もそんな古くからある歴史的な機能のひとつだ。

 月の満ち欠けを文字盤上で視覚的に表現するムーンフェイズ。小窓からのぞかせる月の姿は実用性というよりもエレガントでどこか趣さえも感じられる。そのためかドレス系の高級時計にはこのムーンフェイズモデルが、必ずと言っていいほどラインナップされている。では、いったい何のためにあるのだろうか。

9月30日に敢行したパワーウオッチ11月号の特集ではムーンフェイズの歴史から機構までを解説

 ムーンフェイズの歴史は、腕時計の歴史よりもはるかに古く、16世紀にはすでに複雑時計の機能として出現していた。ちなみ、ムーンフェイズ(Moon Phase)を直訳すると“月の位相”となる、つまり見かけである。余談だがアンティークの時計にみられるムーンフェイズには、今回の新作のように月の図柄に顔が描かれていることが多い。そのためムーンフェイス(Moon Face)と勘違いしてしまう人も多いが、ムーンフェイズと濁るのが正しい。

 さて、ムーンフェイズ機能は、まったく見えない新月の状態から徐々に見えるようになり満月でまん丸になる。そこからまた少しずつ欠けていき、再び見えない新月になる。つまりこの月の状態を同じようにヴィジュアル的に確認できる機構なのだが、この月の位相は地球との関係で生まれ、さらに潮汐(ちょうせき)という現象を産む。これによって影響が出るのが海面だ。海面が盛り上がったり下がったりと水位に大きく影響し、その影響が最も現れるのが “大潮”と“小潮”のときなのである。

アウトラインの新作“ムーンフェイズクロノグラフ7768”の日の裏側にあるムーンディスク。月の絵柄は通常二つだが、このバルジュー7768はムーンディスクそのものが大きいため四つ。つまり4朔望月で表現している点がおもしろい

 実のところかつてはこの大潮と小潮を把握することは、海に関わる人たちにとってはとても重要なことだった。特に大型船などは、それによっては座礁という重大事故を招きかねないからだ。実はこの大潮と小潮は、『満月と新月』が大潮で『半月』が小潮と、月の位相で確認できるのである。つまり大昔において大海原を航海していた船乗りたちはこの月の状態を見て判断していたのである。しかし月は常に見られるわけではない。それは雨などの天候に左右されるからだ。そこで考案されたのがムーンフェイズ機能というわけだ。

 このように昔はその機能的役割には重要な意味をもっていた。しかし、いまとなってはデザイン的な意味合いのほうが大きい。そして、かつては扇形の小窓に表示するスタイルがほとんどだったが、近年はその表現方法も技術の進歩とともに様々なデザインが生まれている。それと併せてかつてはほとんどのムーンフェイズの図柄にあったユニークな顔までもが表現されなくなってしまった。その意味では妙味が何となく薄れてきているのは残念なことである。


ムーンフェイズクロノグラフ7768。実物はここまで黄色みは強くない。Ref.20203-1。真鍮ケース(メッキ)×SS(ケースバック)。36mm径。非防水

 さて冒頭でも触れたように、今回の新作“ムーンフェイズクロノグラフ7768”は、1980年代に日本で実際に販売されていたスイス製のムーンフェイズ付き手巻きクロノグラフのデッドストック品をベースに、ケースとムーヴメントはそのまま活用し、文字盤だけを1950年代風のデザインに作り変えたものなのである。

 そのためムーンフェイズにはしっかりと顔が描かれているばかりか、小窓自体も大きく存在感がある点も大きな魅力となっている。そして小窓からのぞく月もなんとも古典的で味わい深い。

 ただ、デッドストック品のため製品化できたのは17本とごくわずか。現在時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers(ウオッチメーカーズ)」で、先行予約を受け付け中だ。もし興味があれば、ぜひ同サイトを参照していただきたい。定価は24万2000円(早割あり)。

「WATCH Makers(ウオッチメーカーズ)」

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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