アンティーク時計

【アンティーク時計の隠れた逸品教えます!】高精度が追求されたヴァシュロン・コンスタンタンのフラッグシップ

 1761年にフランス人時計史、ピエール・ル・ロワによって初めて使用された“クロノメーター”という言葉は、19世紀に入ると“高精度な時計”を指す総称として定着し、精度コンクールの名にも用いられるようになった。ヴァシュロン・コンスタンタンは、こうしたコンクール用の時計を市販品として展開することを決断し、1907年、ブランドの威信を掛けて製作した懐中時計“クロノメーター・ロワイヤル”をリリースする。この時計はあくまでも日常使いを想定し、精度と耐久性を重視したため、過度な装飾はなかったが、特に南米で人気を博した。理由は、温度と湿度が絶え間なく変化する南米においても、安定した精度を保ったためと言われる。その後、クロノメーター・ロワイヤルの名を受け継ぎ、53年に発表されたのがこの腕時計版だ。

クロノメーター・ロワイヤルの自動巻きモデル。なお自動巻きモデルからセンターセコンド、デイト表示付きという近代的なスタイルに統一された。デザインも凝っており、特徴的なラグや文字盤のマルタ十字に石もセットされたラグジュアリーな意匠となっている。
■K18WG(34.5mm径)。自動巻き(Cal.K1072)。1960年代製

 

 当初展開されたのは手巻きモデルで、クロノメーター仕様のCal.1007BS(スモールセコンド仕様)もしくは1008BS(センターセコンド仕様)を搭載する。また精度はもちろんだが、懐中時計とは異なり、非常にエレガントに仕上げられていた意匠も当時高く評価された。そして62年にはCal.K1072を載せた自動巻きモデルをリリース。ムーヴメントの設計・製造を手がけたのはジャガー・ルクルトで、非常に厚い機械であったが、精度は良く、耐久性にも優れている。66年(異説あり)からはジャイロマックス・テンプに変更されたK1072/1を搭載し、精度の安定性はさらに向上。73年まで生産されたと推測されている。

腕時計版クロノメーター・ロワイヤルのムーヴメントを手がけたのが、ジャガー・ルクルトである。自動巻きのCal.K1072は、ルクルト名871/872をベースとしているが、これはヴァシュロン・コンスタンタンとオーデマ ピゲの専用として開発されたため、ルクルトを含め他社では用いられていない。なお手巻きのCal.1007 BS、1008BSは、ジャガー・ルクルトではジオフィジックに搭載されたCal.478/BWSbrの兄弟機である

 高精度機としてリリースされたクロノメーター・ロワイヤル。細やかなチューニングの結果、その精度はいまなお極めて優れている。とりわけ、自動巻きのCal.K1072系は、パワーリザーブの短さを除けば、1960年代のムーヴメントでも最優秀級の精度をもつ、と評される。またこの年代の防水ケースは、それ以前の物に比べて密封度が高いため、文字盤やムーヴメントがダメージを受ける可能性も低い。普段使いに向く高級機の最右翼だろう。ただし重いローターはしばしばローター回りを摩耗させる原因となるし、きちんと整備しないと精度が出ないのも事実だ。購入の際は、十分な資金を持つか、信頼のできるショップで購入することが重要である。もっとも、いわゆる“役物”であるにもかかわらず、クロノメーター・ロワイヤルの価格は決して高くない。先の自動巻きRef.6694も、その取引価格は、極上品を除いて、通常のヴァシュロン・コンスタンタンと大きくは変わらないから驚きだろう。また文字盤に“Royal”表記のない手巻きモデルの場合、価格はいっそう控えめだ。

 

 

文◎編集部/写真◎笠井 修(時計)

 

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