
筆者はドイツの時計ブランドだけに焦点を当てた時計専門誌「ドイツ腕時計」を2013年から4年にわたって4冊ほど刊行したことがある。かつて日本ではドイツブランドであっても一般的には海外ブランドで括られてしまうため、圧倒的な知名度のスイスブランドの中に埋もれていた感じだった。
そのためこの専門誌では筆者も毎号ドイツに足を運び、スイスとは違うドイツ時計産業の歴史やモノ作り精神などを現地取材に基づいてイチから紹介した。それが新鮮だったのだろう。おかげで好評を博し、どこから知ったのかは不明だが本国から直接連絡があっていまでは4冊ともドイツ国立図書館に収蔵されている。
そんなドイツ時計産業の中心に存在するブランドがA.ランゲ&ゾーネである。
前置きが長くなったが今回なぜ冒頭にドイツ時計について書いたかというと、この連載のちょうど4日前(20日)のこと。見出しにもあるように腕時計を買ったという知人のR氏と久しぶりに食事をしようと会った時に納品されたばかりという時計を着けて来てくれたのだ。
見出しにサラリーマンと書いたが、彼は上場企業に勤める30歳のどちらかというと若いビジネスマン。そんなR氏と昨年1年間ある仕事の関係でご一緒したのだが、年齢からするととても物腰が柔らく控えめながら言うべきことは言う、仕事に対する姿勢がものすごくいい。彼曰く趣味は仕事とサウナらしい(笑)
そんなR氏が今回、頑張った自分へのご褒美として手に入れたという腕時計を見て驚いた。何とA.ランゲ&ゾーネのサクソニア・フラッハ ピンクゴールド(写真)だったからだ。仕事がら常にスーツスタイルの彼は、確かに以前どうせ買うなら重要な場でスーツに似合う小ぶりでクラシックな時計がいいと言っていたことを思いだした。
30歳で特に腕時計好きというわけではない彼が、価格的に考えればスイスの高級ブランドを含めると選択肢はかなりあるなかでドイツのしかも知る人ぞ知る高級ブランドのA.ランゲ&ゾーネを真っ先に選んだというのが渋い。
A.ランゲ&ゾーネの語りどころはいろいろあるが、ひとつだけ挙げるとすればうっとりするほど美しく完成された自社製造の手巻きムーヴメントだろうか。そしてその背景にあるのは「2度組だ」。一度組み上げて完璧に機能するかを確認。そのうえで一度完全に分解して部品一つひとつに最終仕上げを施した後に再度組み上げる。この2次組み立てによって圧倒的な美観のムーヴメントが生まれるというわけだ。
R氏はサクソニアを選んだ理由について「当初はランゲ1を買おうと思って銀座にあるA.ランゲ&ゾーネのブティックに行ったのですが、実際に着けてみたところ手首が細い自分には38.5mm径のランゲ1は少し大きく感じたため、37mmと小ぶりなサイズでデザインもよりすっきりしているサクソニア・フラッハにしました」と語っていた。
クラシカルなドレスウオッチのサクソニアは、秒針も日付表示も無くとてもシンプル。そしてなによりも品が良い。それなりに高いポジションにある人たちと常に接するR氏の仕事柄のことを考えると、控えめながら見る人が見るとその価値がわかる、とてもベストなチョイスなのではないか。
腕時計の魅力と価値が違った方向性で注目される傾向にある高級時計。純粋に頑張った証として手に入れる。高級時計というものは本来こういうもんだよなあ、とあらためて感じさせられた瞬間だった。
