【A.ランゲ&ゾーネ創業175周年記念連載Vol.3】希少なアニバーサリーモデルの魅力に迫る(前編)

 往年のA.ランゲ&ゾーネで黄金期と言われる19世紀後半から20世紀初頭。この時代の意匠をいまに受け継ぐコレクションが、“1815ファミリー”だ。
 グラスヒュッテに時計産業が興って175年となる今年、この1815から三つのアニバーサリーモデルが発表された。

第1回「ドイツ・グラスヒュッテに一大時計産地を築いたF.A.ランゲ

第2回「ランゲ黄金期の意匠をいまに体現する1815ファミリー」


希少なハニーゴールドに包まれたアニバーサリーエディション

(左)1815 ラトラパント・ハニーゴールド “F. A.ランゲへのオマージュ”
(中)トゥールボグラフ・パーペチュアル・ハニーゴールド “F. A.ランゲへのオマージュ”
(右)1815 フラッハ・ハニーゴールド “F. A.ランゲへのオマージュ”

 各モデルを仔細に見ていく前に、3モデルに共通して採用される、ケース素材の“ハニーゴールド”という金合金について紹介したい。

 この素材は高い硬度と温かみある光沢が特長であり、同社が専用使用権を有するものである。2010年の初採用されたものだが、特別なモデルのみでしか用いられることはなく、これまでにわずか8モデルにしか採用されていない。

左がハニーゴールドで、右がピンクゴールド製のケース。色味の違いだけでなく、前者はプラチナの約2倍の硬度をもち、傷つきにくい点が特徴だ

 

 その配合は明らかにされておらず、唯一無二の輝きを放つハニーゴールドだが、“硬度が高い”ということは翻すと、その成形や仕上げ装飾はいっそう難しいものになるということだ。
 それゆえに、このハニーゴールドの外装を持つのは、ランゲコレクションでも最上級モデルに位置付けられている。

 そんな特別な素材を用いたモデルを、同じタイミングで3モデルも投入してきたことからも、このアニバーサリーが同社にとっていかに重要なものであるか、うかがい知ることができるだろう。

 それではひとつずつ特徴をみていきたい。

 

トゥールボグラフ・パーペチュアル・ハニーゴールド “F. A.ランゲへのオマージュ”

■Ref.706.050FE。K18ハニーゴールド(43mm径/16.6mm厚)。日常生活防水。手巻き(Cal.L133.1)。世界限定50本。参考価格50万ユーロ(ドイツVAT19%含む/2020年11月発売予定)

 最初に紹介するアニバーサリーエディションは、684個のパーツ(636個の部品で構成されるチェーンを1個のパーツとしてカウント)からなる手巻きのCal.L133.1を搭載するトゥールボグラフ・パーペチュアル・ハニーゴールド “F. A.ランゲへのオマージュ”だ。
 このモデルは、トゥールビヨン、クロノグラフ、ラトラパント、永久カレンダー、そしてチェーンフュジー機構の5つの複雑機構を同時搭載した、トゥールボグラフ・パーペチュアル “プール・ル・メリット”(2017年発表)をベースに誕生した。

 ちなみにチェーンフュジー機構とは、ゼンマイの力の低下を補正して、ムーヴメントに常に一定の動力を供給する役割を担う。つまり動力を一定供給し、テンプの振り角を常に一定に保つことで、精度の安定性を高めるための機構だ。

1994年に発表した新生A.ランゲ&ゾーネの第1弾コレクションである“トゥールビヨン・プール・ル・メリット”に、腕時計サイズでははじめてチェーンフュジー機構が組み込まれ、大きな話題を集めた

 このチェーンフュジー機構のみならず、本作にはデザインを含めて様々な古典的な意匠が盛り込まれている。
 そのなかでもアニバーサリーモデルらしい特別感を演出しているのが、トゥールビヨンの受け石にダイヤモンドを採用している点だ。往年の高級懐中時計では、テンプの受け石などにダイヤモンドが用いられることがあったが、本作では文字盤側の目に付くところにセッティングされている。

繊細なパーツで構成されるトゥールビヨンの受けにはブラックポリッシュが施されている

 またダークカラーの文字盤も非常に手が込んでいる。
 一般的なアプライド仕様は、別体となったインデックスを後から文字盤に取り付けるものだが、本作ではケースと同じハニーゴールド製の文字板から浮彫りによってインデックスなどを成形。約0.15mm隆起させて立体的に仕上げたものだ。これほど緻密な文字盤を成形するにはかなりの時間と手間が掛かっていることは想像に難しくない。

文字盤はブラックロディウム仕上げを施し、印象的な雰囲気に仕上げられた

 複雑機構をこれほど備えているモデルならば、“グランド・コンプリケーション”を名乗っても不思議ではないのだが、同社では合計7つの複雑機構を備えたモデル(2013年発表)に、すでにその名を与えているため、あえて本作では使用していない。

 もっともその複雑さゆえにムーヴメントは大きく、ボリュームはかなりある。ケース径は43mm、厚みは16.6mmと存在感も一級だ。

 ただ、これほどボリューム感のあるゴールドモデルながら、ハニーゴールドの優しい輝きとダークカラー文字盤のコンビネーションを採用することによって決して派手すぎず、あくまで上品な雰囲気だ。
 A.ランゲ&ゾーネの高い技術力とデザインセンスが光る1本と言えるだろう。

 次回は、残りの2つのアニバーサリーエディションについて紹介する。

 

文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修

 

【問い合わせ先】
A.ランゲ&ゾーネ TEL:03-4461-8080
https://www.alange-soehne.com/ja/

 

 


【175年の歴史を振り返る】“A.ランゲ&ゾーネ”の175年アーカイブ巡回展が開催中

 ブランドの時計作りの原点である、F.A.ランゲとその息子たちによって生み出された懐中時計が今回、本社のアーカイブより、19世紀後半から20世紀前半にかけて製作されたポケットウオッチ5点が来日。日本国内のA.ランゲ&ゾーネブティックにて 巡回展を開催する。

 本巡回展で展示されるのは、A.ランゲ&ゾーネの品質等級で“1A”と称され、最高ランクに位置付けられた貴重なタイムピース。

 洋銀製4分の3プレートやゴールドシャトン、ダイヤモンドの受け石、ハンドエングレービングで仕上げたテンプ受けなど、いまも受け継ぐ伝統技法とムーヴメントを彩る丹念な手仕事を、現代のコレクションとともに見てみてほしい。

【A.ランゲ&ゾーネ 175年アーカイブ巡回展スケジュール】

A.ランゲ&ゾーネ 伊勢丹新宿店
日程・・・2020年11月4日(水)~11月17日(火)
営業時間・・・10:00〜20:00(定休日なし)
場所・・・東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店本館5階
問い合わせ・・・代表TEL.03-3352-1111、Email:als.shinjukuisetan@lange-soehne.com

A.ランゲ&ゾーネ 阪急うめだ本店
日程・・・2020年11月19日(木)~11月26日(木)
営業時間・・・10:00〜20:00(定休日なし)
場所・・・大阪市北区角田町8-7 阪急うめだ本店6階
問い合わせ・・・代表TEL.06-6361-1381、Email:lange-soehne-h.umeda@cronos.co.jp

A.ランゲ&ゾーネ 銀座
日程・・・2020年12月16日(水)~ 2021年1月11日(月)
営業時間・・・11:00〜19:00 (定休日なし)
場所・・・東京都中央区銀座6-7-15 第二岩月ビル 1階
問い合わせ・・・TEL.03-3573-7788、Email: als.ginza@lange-soehne.com