アンティーク時計 @kikuchiのいまどきの時計考

実用アンティーク「オメガ・30mmキャリバー」【後編】|デザインの豊富さも大きな魅力だ

 先週に引き続き手巻きムーヴメントの傑作と言われるオメガのCal.30こと通称“30mmキャリバー”を取り上げる。今回は後編としてCal.30(以降30mmキャリバー)はなぜ愛好家からの評価が高いのかに加えて、どのようなモデルがあるのかについてももう少し掘り下げてみたい。

優れた耐久性とメンテナンス性も高評価

 さて、この30mmキャリバーが誕生したのは1939年のことだ。その当時のムーヴメントサイズといえば20mm台が主流だった。そのため30mmというサイズは、かなり大きく感じられたに違いない。

 その最大の理由は、テンプ、香箱、歯車といった基本パーツを大型化したことが大きく関係している。なかでも心臓部のテンプにいたっては直径12mmもある。しかしながら、この大きなテンプを採用することで、1万8000振動のロービートであっても安定した精度を保持することができるのだ。

基本パーツは大きく、しっかりと作られているCal.30。写真はその2号機であるCal.30 T2をベースに改良が加えられ、1943年に登場したCal.262(30 T2 RG)

 テンプ以外のパーツにも大きいものが採用されている。特に天真は太く耐久性が高められている。30mmキャリバーにテンプの耐衝撃装置が付いたのは1949年(Cal.265)とかなり遅い。その理由には、天真が太くその必要性を感じなかったからではないかといわれるほどだ。また、この大きなパーツによって、分解掃除も行いやすく、メンテナンス性をも高めているため時計技術者からも評価は高い。

 さらにもうひとつ、構造がとてもシンプルなため故障が少ないといわれる。ユーザーにとってはこれが最大の魅力といえるだろう。しかも、前編で紹介したようにクロノメーターでありながらも量産化されていたため、アンティーク市場で比較的に見つけやすい。

 なお、デザインはベーシックなものから軍用まで多岐にわたる。これも30mmキャリバーの大きな魅力と言えるだろう。そこで代表的なモデルをここにいくつか紹介する。

>スタンダードタイプ

インデックスや時分針、文字盤の色違いなどデザインの幅はとても広い。またムーヴメントには2種類あり、左二つのように秒針が6時位置にあるスモールセコンドタイプと右側のモデルのようにセンターセコンドタイプがある(Low BEAT No.3オメガ特集より)

 30mmキャリバーには秒針が6時位置の小さなインダイアルに表示されるスモールセコンドタイプ(写真の左側と中央の時計)と写真の右側の時計のように時分針と同軸にあるセンターセコンドタイプの2種類のムーヴメントが存在する。

 加えてインデックスや時分針、文字盤の色違いなどデザインの幅はとても広く様々だ。共通して言えることは、白い文字盤よリも黒い文字盤でスモールセコンドタイプの人気が比較的に高いということ。実勢価格は10万円台後半から30万円台。

>ランチェロ

ランチェロ、1956年に登場したCal.30の進化版であるCal.267を搭載する(Low BEAT No.3オメガ特集より)

 オメガが誇る傑作機、スピードマスター、シーマスター300、そしてレイルマスター。通称マスター3兄弟。この中のレイルマスターもファーストモデルは実のところ30mmキャリバーを搭載する。ただ、現在の実勢価格は300万円以上のためここでは割愛。代わりにその派生モデルとして1950年代半ばに登場したランチェロを取り上げた。

 細長のトライアングルインデックスに飛びアラビア数字、そして大きなアロー型針など、レイルマスターのファーストモデルのディテールと同じデザイン的な特徴をもつ。そのため実勢価格はスタンダードなものよりも高く、50〜80万円台といったところだろう。

>イギリス陸軍用タイプ(ダーティーダース)

イギリス陸軍向け軍用時計、1940年に作られた量産型Cal.30の2号機、Cal.30 T2を搭載する(Low BEAT No.3オメガ特集より)

 イギリス陸軍の軍用時計で最も有名なのが、第2次世界大戦期(正確には1944年以降)に支給され、愛好家の間ではダーティーダースとも呼ばれたスモールセコンド仕様の3針時計である。与えられた管理コード、W.W.W.は“Water proof Wrist Watch”の頭文字からとったもので、防水腕時計を意味する。

 当時、この製造を手がけた時計メーカーは、そのほとんどはスイスの時計メーカーで計12社にも及ぶ。つまりこれがダーティーダースの愛称で呼ばれるゆえんだ。そしてその中のひとつがここに取り上げたオメガの30mmキャリバー搭載機なのである。

 ロゴの下にはイギリス政府所有の官給品であることを示す矢印型のシンボルマーク“ブロードアロー”が表示されているのも特徴。実勢価格は40〜60万円台。

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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