【知っておきたい腕時計の基本】ムーンフェイズ機構のメカニズムとその精度

 1950年代〜60年代にかけて旺盛を極めたムーンフェイズ機構。いまでも潮汐(ちょうせき)を読む際などに使用されることもあるようだが、実生活において使われることはほとんどなく、むしろ古典的機構として、デザイン的な要素で搭載されることが多くなっている。

 ここで改めてムーンフェイズ機構がどういったものか、そのメカニズムを含めて解説したい。
 地球が太陽の周りを回る周期を基にする太陽暦に対して、月の満ち欠けの周期を基にしているのが太陰暦である。この際の月の動きを示すのがムーンフェイズ機構である。
 月の周期は約29日と12時間44分2.8秒のサイクルで1周する。それを歯車で表現する場合は、端数を切り捨てなければならない。例えば12時間以下を切り捨てた29歯の歯車の場合、ディスク1周で1朔望(月の満ち欠けの1周期のこと。主に朔(新月)から次の朔まで、もしくは望(満月)から次の望の期間を指す)を表示できるのだが、これだと約58日で1日分の誤差が生じてしまうため、精度としてはあまり優秀と言えない。
 そこで一般的なムーンフェイズ機構では、ディスク1周で2朔望月(さくぼうげつ)を表示することが多い。この場合、29.5の倍となる59歯の歯車を用いることで、1朔望月の誤差を約44分にまで縮めているのだ。59歯だと誤差は約2年7カ月で1日分となる計算なので精度としては十分優秀と言える。

一般的なムーンフェイズ機構は59歯(写真)の歯車を用いて、ディスク1周で2朔望月を表示している

 しかし、なかにはもっと高精度なムーンフェイズもある。その先駆けとして誕生したのが、IWCが1985年に発表したダ・ヴィンチ・パーペチュアルカレンダーだ。これは歯数を従来の倍以上に増やし、限りなく月のサイクルに近づけることで誤差を少なくしている。その精度は約122年に1日の誤差という優れたものだ。
 この“歯数を増やす”というアプローチは、繊細なパーツ加工技術を要するため、当時製作できるメーカーは一部に限られていたが、現在は工作機が進化したこともあり、以前に比べると製作がそれほど困難ではなくなったようだ。いまでは同レベルの精度を実現したムーンフェイズモデルが結構ある。

1985年にIWCから発表されたダ・ヴィンチ・パーペチュアルカレンダーのRef.3750。このモデルに搭載されたムーンフェイズは約122年に1日の誤差という高精度だった。自社製の永久カレンダーモジュールを動かすため、強力なトルクをもつETAのCal.7750をベースにしている

 他方、これとは別のアプローチで精度を追求するメーカーもある。そのなかで現在、精度における最高峰モデルと言えるのが、スイスのアンドレアス・ストレラーが発表した“ストレラー・ルナ・リューン・パーペチュアル2M”である。これはギア比を変えた四つの歯車を用いて極めて高い精度を実現。その誤差はなんと206万757年に1日というから驚きだ。

日本未上陸のブランドのため、あまり知られていないが、スイスのアンドレアス・ストレラーでは、正確なギア比を計算し、たった四つの歯車で約206万年に1日という驚くべき精度を実現したムーンフェイズモデルを展開している。この精度はギネス記録だ。
ストレラー・ルナ・リューン・パーペチュアル2M
■Pt。手巻き(Cal.Sauterelle Lune 2M)。参考定価11万3000スイスフラン

 

文◎堀内大輔(編集部)

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