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菊地の【ロレックス】通信 No.092| デイトナ人気の火付け役。それはイタリアだった!?

 当連載の80回82回の2回にわたってテーマとして取り上げた「日本の並行輸入市場とロレックス」。その第1回目として書いた1980〜90年代の記事でも触れたのだが、デイトナが注目されるひとつのきっかけとなったのが、搭載するクロノグラフムーヴメントが、それまでの手巻きから自動巻きへと変更されて1988年に登場したデイトナ、Ref.16520だったと言われている。

 その発端となったのはイタリアである。正直なところそれまでのデイトナはまったく人気がなかった。それがイタリア・ヴォーグ誌のファッションページを飾ったことから、瞬く間に世界に人気が波及したというのだ。

自動巻きのクロノグラフムーヴメントが初めて採用されたRef.16520。ムーヴメントは自社製ではなくゼニス社のエル・プリメロだった(写真◎専門誌「ゼロからわかるロレックス」より)

 さて、このRef.16520の最大の特徴は、端的に言うと毎時3万6000振動のハイビートを誇るゼニス社の“エル・プリメロ”を採用している点だ。しかも、ロレックスは耐久性に配慮してこの振動数を毎時2万8800振動に改良して使用していたことも大いに話題を呼んだでいる。

 こう言われて機械式時計のことがわからない人には、まったくピンとこないと思われるため、これがどういうことなのかを簡単に補足すると、機械式時計はムーヴメントの心臓部にあるテンプと呼ばれるゼンマイが付いた車輪のようなパーツが往復回転運動して精度を保っている。この往復運動を振動数と呼び、1時間に何回往復運動したかを数字で表す。

 つまり、このデイトナに搭載されたエル・プリメロは、1時間に3万6000回往復するほどの高性能機だということを示している。これを1秒に直すとさらにわかりやすい。1時間=3600秒として算出するとわずか1秒間に何と10回も往復していることになるのだ。

 では、この振動数が高いとなぜいいのか。古いたとえで恐縮だが回転する“こま”を思い浮かべてほしい。こまは早く回転すればするほど安定する。つまりこれと同じで、振動数が高ければ高いほど、精度は安定するというわけである。

 しかしながら、精度は確かに上がるもののそれによる弊害も出てくる。高速で往復回転運動をさせるわけだから、当然、パーツへの負荷も大きくなる。つまりロレックスは、この点を考慮して一般的な振動数である毎時2万8800振動に抑えたと言われているのだ。

Ref.16520(右)と2000年に発表された自動巻き第2世代であるRef.116520。基本デザインはほとんど同じだが、大きな違いは自社開発のCal.4130が搭載されたことだ(写真◎専門誌「ゼロからわかるロレックス」より)

【写真】ここを見ればデイトナのRef.16520とRef.116520の違いがわかる6大ポイント!

 そして、ロレックスは、テンプを大型化しテンワ内側のアームを3本から4本に増やして剛性を高めるなど振動数を抑えたぶん、高精度を保ちつつさらに耐久性をも高める改良を施したのである。加えて微妙な歩度調整を行うためのマイクロステラナットを装備。このアフターメンテナンス性にも配慮した作りは大いに高い評価を得たのだった。

 このRef.16520の製造期間は、自動巻き第2世代のRef.116520が発表された2000年まで。この約12年間の間には外装面の細かなマイナーチェンジが施されている。そのため、その仕様のレア度によって実勢価格はかなり幅広い。300万円台から希少なものでコンディションがいいと800万円台とかなり高額になる。いまやコレクターズアイテムだ。

 なお、このマイナーチェンジの詳細に付いては、筆者が刊行した「ゼロからわかるロレックス3/改訂版」に写真付きで解説している。気になる人はそちらも参照してもらえたらと思う。

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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