
戦後、著しい成長を遂げた日本の時計産業。その象徴となったのが1960年に諏訪精工舎が発表した“グランドセーコー”である。技術の粋を集めて開発された初代グランドセーコーはわずか15年余りで当時のスイス・クロノメーター優秀級(平均日差−1〜+10)と同等のレベルの精度を実現した。
ここに取り上げたV.F.A.は、そんなスイス勢に「追い付き、追い越す」を目標に掲げて1969年に開発されたグランドセイコーのいわば頂点に君臨したモデルである。V.F.A.とはVery Fine Adjustedの頭文字からとったもので、「特別調整品」として当時のクロノメーター規格を遥かに超える月差±1分以内という当時最高峰の精度を誇っていた。なお、購入後の2年間は同精度を保証していたというからいかに自信があったかがわかる。
V.F.A.には第二精工舎が開発した手巻きの45GS V.F.A.と諏訪精工舎製の自動巻き61GS VFAが存在し、今回取り上げた個体は後者。
そしてこのV.F.A.にはこのステンレスケース仕様のほかに、銀パラジウム合金製ケースで1968年にしか生産されていない激レアモデルも存在するものの、市場で見かけることはほとんどない。

さて、今回取り上げた写真のV.F.A.だが、自動巻きムーヴメントが61GSベースのCal.6185AからGSスペシャルベースのCal.6185Bに変更されたときの個体である。そして注目は文字盤の6時位置に表示されている「VFA」表記だ。
一般的なものはかなり控えめなのだが、この個体は諏訪精工舎マークが植字でVFAの書体が通常よりもだいぶ大きい。これはCal.6185Bを搭載する初期の個体に存在する珍しい仕様なのである。
1950〜90年代のセイコーを700点以上も収録した「JAPAN VINTAGE SEIKO」の監修者であり、国産時計研究家としても知られる本田義彦氏はこの文字盤について次のように語る。
「数多くのV.F.A.を見てきましたが、VFAと諏訪マークの扱いについては少し複雑で次のような変遷だと思います。最初は諏訪マークのみの文字盤が作られ、続いて写真の個体のような大きめで目立つビッグロゴ仕様の文字盤が作られたのだと考えています。ただ、その時点の6185A搭載モデルでは使われず全体が小さく控えめで諏訪マークも植字ではなくプリントタイプの文字盤が採用されました。それがその後に出てくる改良版6185B搭載モデルになってなぜこの文字盤が採用されたのかは謎です」

それにしてもこの個体は壁のように極端に高さのあるバーインデックスを備えたタイプ。ミニッツカウンターも内側に配置されて時分針も短めの独特なスタイル。エッジの効いた特徴的なフォルムのケースと相まって近未来的な雰囲気なのもとても印象的だ。
ちなみにこの個体は、先述したヴィンテージセイコーの専門書に実際に掲載された商品(上の写真)で国産ヴィンテージ専門店の「JAPAN VINTAGE WATCH SHOP」では掲載証明書付きで販売もされている。
【セイコー61GS V.F.A.】
Ref.6185-8021-G。自動巻き(Cal.6185B)。1971年製。223万7400円(掲載証明書付き)
協力◎JAPAN VINTAGE WATCH SHOP

