アンティーク時計 @kikuchiのいまどきの時計考

【第3回】ポストヴィンテージ時代の腕時計|流行したカラー文字盤と多面カットガラス

上の写真(左)は9面にカットされた風防をもつラドーのバルボアV。(右)通称“ツノクロ”と呼ばれる12時側にプッシュボタンを配したシチズンのチャレンジタイマー。「Low BEAT No.14」より

 今回は1970年代でもグッと身近な価格帯で手に入る当時のモデルの話題について取り上げたい。それはタイトルにも書いたが“カラー文字盤と多面カットガラス”についてだ。恐らくは50代から60歳代の方なら懐かしく思われるのではないか。

 このテーマは、筆者が編集長を務めるアンティークウオッチの専門誌“Low BEAT(ロービート)”14号の特集「70年代デザインを考察する」でも取り上げたのだが、ポストヴィンテージ時代でも、とりわけ70年代のデザインがより斬新かつストレンジなものだった背景には、変形ケースとともにこの二つの存在も大きく関係していた。

 なお、後者の多面カットガラスについては、海外ブランドだと女性向けモデルに採用されていることのほうがどちらかというと多く、男性向けとしてはスイス勢よりも国産ブランドから多種多様なデザインが生まれている。そのため日本人は、特に身近に感じるモノかもしれない。

 ではなぜ流行したのだろうか。その背景を探るうえでロービート誌の特集では、「60年代にサイケやヒッピーといったカラフルなファッションが注目された時代を経て、70年代に入ると一般家庭にカラーテレビの普及が加速し、色をリアルに消費者に訴求できるようになったことは少なからず関係しているのではないか」と、当時の時代背景として、あるプロダクトデザイナーの話を載せた。

 グローバルでもそうかと言われれば正直なところ微妙だが、少なくとも日本では確かにこの時代の家庭家電や食器などを見るとカラフルなものが多く訴求されており、カラー化は腕時計に限ったことではなく、モダンかつ新しさの象徴としてはまさにトレンドだったことは間違いない。

通常、3面、5面、9面と奇数が一般的だが、なかには6面というものも少数派ながら存在していた。「Low BEAT No.14」より

 一方で、この時期にカラー文字盤とセットで流行した多面カットされた風防も実はカラー文字盤化を加速させた要因のひとつにも考えられる。

 時計界では、60年代後半からアクリルガラス(プラスチック)に代わってクリスタルガラスが風防に使われるようになる。クリスタルガラスとはミネラルガラス(いわゆる一般的なガラス)のなかに特殊強化加工を施したもので、透明度と屈折率が高く、クリスタルのように美しく輝くことから名付けられたものだ。

 つまりこのクリスタルガラスの登場によって、アクリルでは強度的に難しかったガラスの加工が可能となったことから、多面カットの風防を採用した時計がスイスで誕生したと言われている。

 多面カットすることで視認性は若干落ちるものの、光の屈折によって見え方が変化し、宝石のようなキラキラとした輝きも生まれることから、特に当時の女性向けの時計で爆発的な人気となったのである。そして男性モデルにも採用されるようになり、日本にも波及したと考えられる。

 カラー文字盤については様々な人気海外ブランドから出ているが、先述したように多面カットガラスを採用したメンズモデルは、海外勢では少なく、ラドーを筆頭にテクノス、ホイヤーなど。それに対して、現在流通しているのを見るとセイコー、シチズン、オリエントの国産3ブランドが圧倒的に多い。しかも、実勢価格は5〜8万円と1960年代以前のアンティークウオッチに比べるとだいぶ手頃だ。

40年以上ぶりに引っ張り出してきた筆者が所有する1972年製のセイコー・ロードマチック。9面カットガラス風防にグラデーションとも違う独特の濃淡をもつカラー文字盤が70年代前半に流行した

 筆者も1972年製のセイコー・ロードマチック(写真)を所有している。実は中学入学時にもらったもので、ロービートの特集の際に思い出して40年ぶりに引っ張り出し、オーバーホールに出した。

 意外にもジャケパンスタイルに合うため最近は気に入って週2回ぐらい着けて楽しんでいるが、多少パワーリザーブが短くなった以外はすこぶる快調である。

 そして驚くのが、この時計を見せたときの相手のリアクション。おじさんたちからは「お〜懐かしい」だが、若い男性や女性にとっては新鮮なようで逆に評価は高い、特に女子受けはすこぶる良好なのである(笑)

 ポストヴィンテージ時代の時計についてもっと知りたい方は、2016年に刊行したこちらも見て欲しい。
「1970〜00 傑作腕時計図鑑」

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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