レビュー記事 国産時計

【話題の国産ウオッチを本音レビュー|Vol.2】ザ・シチズン キャリバー0100 ステンレスモデル

 時計の究極の機能とは、常に正確な時刻を知らせてくれることにあるだろう。
 そういう視点で考えれば、機械式時計は永遠の未完成品だ。どれだけ熟練の職人が腕を奮って精度を追い込んでも、日に数秒程度の誤差からは逃れられない。クロノメーターの認定基準が平均日差-4~+6秒だから、この程度の範囲に収まる設計・加工技術があれば十分にハイレベルなムーヴメントと言えるのだ。

 精度という意味で現時点での完成形は、電波時計やGPS時計だろう。定期的に電波を受信して誤差を自動修正する機能を備えているだけに、誤差は生じようがない。しかし、これはムーヴメント自体の精度とは無関係であって、便利ではあるがメカフェチの心はあまりくすぐられない。

 水晶振動子を電子制御して動作するクォーツ時計は、機械式時計より精度も追い込まれており、現行モデルでの一般的な月差は±20秒程度だ。
 しかし近年のシチズンでは“自律型の年差クォーツ”というムーヴメントに執心している。これは年間に生じる誤差がわずか数秒のレベル、つまり1年使っていてもほぼ誤差が生じないという驚異的なものだ。電波時計が存在する時代にこうしたムーヴメントを大事にしている点は、シチズンという時計ブランドの矜持を感じさせてくれる。

 

ザ・シチズン キャリバー0100 ステンレスモデル

■Ref.AQ6100-56L。SS(39mm径、9.7mm厚)。5気圧防水。クォーツ(Cal.0100、光発電エコ・ドライブ)。77万円

 

 今回ピックアップした“ザ・シチズン”AQ6100-56Lは、自律型年差クォーツのなかでもさらにハイレベルな年差±1秒を実現したCal.0100を搭載したモデルだ。

 一般的に安価で正確なイメージのあるクォーツムーヴメントだが、搭載するCal.0100のコストは高級機械式時計並みに高い。
 極度に研ぎ澄まされた年差±1秒という精度を実現するために、シチズンの持てる技術や技能を集結したという。
 使われている振動子は一般的なクォーツの250倍以上の振動数を生み出すATカット型水晶振動子。この振動子は精度に影響を与える温度や重力の変化に強い特性をもつものの、高振動の振動子は消費電力もそれだけ大きいという問題がある。このための省電力化と安定した駆動が、このムーヴメントの大きなポイントだろう。

 さらにCal.0100は、年間で1秒という範囲内に誤差を収めるために温度差にも着目。1分に1回の温度変化モニタリングをして、温度変化から生じるわずかな誤差を補正する機能を実装した。
 また、秒針を1秒毎にぴったりと目盛りにのせるため、歯車のわずかなあそびを抑制する特殊なバネと歯車で構成された三番戻し車を組み込むなど、その設計はいままでの常識にとらわれない非常に斬新なものだ。電波の制御を受けることなく、時計単体の機構だけでほとんど誤差を生じないという機構の凄みは、こうしたディテールを踏まえていけば理解できるだろう。

 そして外装もそのムーヴメントに負けないほど丁寧に作られている。
 ケースサイズは39mmと品の良い大きさ。パッと文字盤を見た感じはシチズンのブランドロゴと、同社の最高峰ライン“ザ・シチズン”であることを示すイーグルマークがあるだけで、あとはベーシックなバーインデックスのみ。非常にシンプルな顔つきだが、文字盤全面が微細なラメで覆われておりそこに艶っぽさを加えている。
 ケースやラグ、ブレスレットに用いられた鏡面仕上げと節目仕上げのコンビネーションは、時計に独特の立体感を生んでおり、そこにさらに表面にデュラテクト加工することで硬度と美しさを高めているのだ。

 またケースはかなり薄い(9.7mm)ため、装着してみると腕へのフィット感が非常に良い。針はやや太めの真ちゅう製ヘールカット針を採用しているのだが、クォーツでこのくらい太い針を動かすには相当なモーターのトルクが必要になるはずだ。消費電力の大きい水晶振動子を採用したこのモデルの場合、二次電池も当然大きなものが必要になるし、さらにハイパワーのモーターを内蔵するとなると、メカニズム全体としてはそれなりの容積が必要になるはずだ。それなのにケースはあくまでも薄くスマート。設計者は効率の良いパーツ配置に相当苦労したと思われる。


 シチズンでも最高峰ラインとして打ち出しているザ・シチズンだが、このモデルはメイド・イン・ジャパンの底力を存分に感じさせてくれるモデルだといえよう。
 カレンダー表示がない3針のみのシンプルなフェイスなので、あらゆるシチュエーションで使うことができ、若い年齢層の人が使っても似合いそうだ。
 何より時計作りの原点を意識しつつ、“正確な時を刻む”というこだわりをもったものづくりをクォーツで実現するというシチズンの姿勢に敬意を評したい。ちなみにザ・シチズンはオーナーズクラブに入会できるサービスがあり、入会すると10年間の無償点検サービスが受けられるほか、抽選でミュージアムツアーに招待されるなど、プレミアムな特典が用意されている。こういうサービスを設けているところも、時計のラグジュアリーさと相まってうれしい配慮だといえる。

 

構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部

 

【問い合わせ先】
シチズンお客様時計相談室 TEL.0120-78-4807
https://citizen.jp

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